恋愛メンテナンス
私も向かいのオジサンにお酌をしようとすると、

「いい、俺がやるから」

永田さんは私から瓶を取った。

「あっ、でも…」

「主役はやらんでいい…」

私はそう言われて、逆隣りに座るオバチャンたちの会話に入った。

「永田ぁ、おまえ寂しいからって手ぇ出すなよ」

副所長さんなのに、今夜は無礼講ってやつで、逃れられないくらいにツッコミを入れられていた。

「いつ寂しいだなんて愚痴りましたぁ?俺、今のままで充分充実してますし」

「おおっ?!」

「おいおい、副所長さん。そんな事言いながら隣りに座りやがってぇ~、場所変われよ、場所っ」

「嫌ですよ」

永田さんは澄ました顔してウーロン茶を飲む。

「副所長、美空さんと年が近いんですよぉ」

若い男の子が移動して来て教える。

「えっ?そうなのぉ?20代じゃないの?」

「はい、アラサー真ん中あたりです」

驚いてる。

「へぇ~、ねぇ俺の愛人にでもどう?…な~んてね(笑)」

酔いが回ってきたのか、更に盛り上がる。

「愛人だなんて、野蛮人だな全く…」

永田さんは軽蔑しながら、ボヤいていた。

「愛人は野蛮人なのか…」

私もボヤくと、永田さんと私は目が合った。

………。

「ん?」

「いやいや、何でもないです」

私は永田さんの愛人には、なれないって事か…。

「ねぇ、美空さん独身なんでしょ?彼氏は?」

焼き鳥を食べながら私は答える。

「居ません、別れました」

「何でぇ?」

私は抵抗もなく、普通に言ってしまった。

「結婚したくないから別れました」

すると若い男の子たちは、どよめいた。

「えーっ、結婚したくないって、そんな人とずっと恋人同士してたの?」

オバチャンたちは自分の事みたく言った。

「あのねぇ、女にとって結婚ってのは、相手次第で幸にも不幸にもなるんだから。これだから男は、やだねぇ」

「おぉ、怖っ。女はいつも男のせいにしやがる」

オジサンたちは冗談っぽく、小声で呟く。

「自分にとって、ふさわしくないから別れたんでしょ?」

そう聞かれてキッパリ、

「はい。でも私は結婚じたい、したくないんです。結婚したら、自分の思うような生活ができなくなるでしょ?それが私は絶対嫌なんです」

「言ってる事は、確かだね」

と、オバチャンたちも苦笑いでフォローしてくれた。

「何をするにも旦那さんの許可を取って。更には子ども産めだの、親戚付き合いだのって。自分の望まない事ばかりを無理矢理するの、私はプライベートで、なるべく束縛や制限されたくないんです」

所長さんは、穏やかに言ってくれた。

「美空さんは自分らしく生きていきたい子なんだね?」

「はい」

そうなんです!

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