恋愛メンテナンス
輝はプライベートで親しくなると、凄くお喋り。

私なんて、たぶんもうマブダチみたいなノリで、人懐っこくペラペラと喋ってくれる。

全然、面白くないネタなんだけど。

クールな一面が剥がれていく過程が、私には楽しくて仕方ない。

こんなに自分を飾らないで、私にその姿を見せてくれる男は、今まで出会った事がない。

決め付けられていた皮を、輝はうっとうしそうに、どんどん剥がしていく。

剥がれれば、剥がれる程、更にキラキラの度合いが増す。

聞き手も上手で、どんどん私の本音を引き出そうとしていくの。

ツッコミながらフォローして。

求められる厳しさで叱りながらも、優しさで温めて教えてくれる。

だから、あなたが好き…。

またまた、つくづく身にしみた。

ガシャーン!!

パッリーン!!

うぎゃぁぁぁ!!

穏やかに話していると、物凄い音がまた店内に響いた。

例のあの集団ママ友軍団だ。

子どもがグラスを落として、大惨事。

泣き叫ぶ小さい子どもをあやす方が先で、全然床に溢れたモノを拭かず、白々しく店員を呼び付けて拭かす。

「申し訳ございません。速やかに拭かせて頂きます!」

何故か店員が、謝るのだ。

しかも謝るやいなや拭いている店員に、

「グラタン頼もっかぁ」

って…。

呆れるわ。

マジもう、おまえら死ねよって。

私は店員の慌てた表情に、自分を照らし合わせて見た。

………。

あんなの、私だったら…耐えられない!

「偉そうに、まずは自分が拭けよっての。子どもなんぞ後だろよ。まずは主婦なんだから、床くらい拭けよ。で、とっとと、そのうるさい生き物黙らせろっての。本当に迷惑な生き物の集まりなんだから!」

私は握り拳を震わせて、奴らに聞こえるように言ってやる。

プツンと切れたら、見境が付かなくなる。

それも、私の本当の性格。

周りはもう、見えてない。

私に写るのは、何も言わないで必死な表情で床を拭く、若い女の子の店員さんの横顔だけ。

「子持ちの若い主婦なんて本当は、この世の中で一番非常識なんじゃないのかって思うわ。だいたい、いつも言い訳すんのよね、子どもがぁ~、旦那がぁ~。それで都合のいい時だけ、親に預けて遊びまくるのよ。それで完璧に主婦や家事をやってます、みたいなツラして、勝ち組みたいな主張をすんのよ!」

私にはもう、輝の姿だなんて消えてしまって、自分の思いを吐き飛ばす。

「大ッ嫌い!大ッ嫌いなのよ!子持ちのシシャモ主婦は!自分の子どもが一番可愛いだとか、思い込みも甚だしいわ!壁紙だとか?ホームページ?ブログに自慢して成長記録だなんて、あかの他人に自慢したりして、ヒクわ!ヒク!!」
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