紅茶遊戯
紅茶遊戯
ストーブの油と、乾いた木片を焦がしたようないかにも危なっかしい香りの中で、私は薄目を開けた。

休憩室のテーブルの木目模様がまず目に入り、次に壁に掛けられたアナログ時計に目をやると、ちょうどもう店に戻らなくてはならない時間だった。

首を左右に振ると、ぽきぽきっておもちゃみたいな音がした。

ここのところ、連勤で辛い。
その上クレームの電話はほとんど毎日掛かってくるし、そういう精神的な疲れが体力的なものを上まって、きつい。

はあ、と息を吐く。
もう大分温くなった、紅茶が入ったペットボトルのオレンジ色のキャップを開ける。
一滴残らず喉に流し込むと、空のペットボトルをゴミ箱にぞんざいに投げ入れた。

頭を左右に振る。
今度はぽきぽきなんかじゃなく、ぶるぶると激しく脳みそが揺れる音がした。

一応の身だしなみ、口元に着いているであろう涎の跡を手首で拭いて、私は休憩室を出た。
夕方を過ぎた店内は、仕事終わりや学校帰りのお客さんたちで混み始めている。


「あ、寛永さーん、待ってたんですよぉ」


バイトの緒方さんが焦ったように、店内に戻ったばかりの私に駆け寄って来た。
私より大分若い彼女は、ピンクのチークがふんだんに塗り込まれた頬をぷっくりと膨らませた。


「小林さん、またレジ打ち間違えてたんです!お釣りも絶対合ってないですよ。しかも新規会員様のご記入漏れもあって。もうっ、寛永さんからなんか言ってくださいよー!」
「ああ…」


またか。
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