紅茶遊戯
私は店内を見渡した。
噂の小林はというと、返却されたDVDを棚に戻す作業に明け暮れているようだった。
先週はセールだったから、今週の返却量といったら膨大だった。


「小林さん、ほんとどうにかならないですかね?一緒に組まされると必ずなにかやらかしてくれるんで、私まで店長に怒られちゃうんですよー?」


マジで勘弁して欲しいです、辟易としたように彼女はそう付け足して、レジに来たお客さんに営業スマイルを向けた。

小林はまだここのバイトを始めて三カ月の、大学生。
緒方さんはそうは言うけれど、小林がミスする度に指導係の私だって店長にチクチク言われるし、シフトだってバイトみんなの希望になるべく添うように長時間頭を悩ませて作っているのに。

私は溜め息を吐くと、小林の元に歩いた。


「あのさ、小林くん」
「はい?」


はい、じゃねーよ。
なんて私の悪態めいた胸中を知る由もない小林は、DVDを小脇にいっぱいに抱え、素直そうな目で私を見返した。


「さっきレジでミスしたみたいね。お金のことはほんと、気を付けて頂戴ね」
「はい、すみません…」


小林はかくんと頭を垂れた。
もっさりとした長めの髪が、顔全体、黒い大きなフレームの眼鏡までほぼすっぽりと隠す。


「新規の記入も、ちゃんと確認してね」
「はい……」


体の線がとにかく細くて、後ろから見たら女の子みたいな小林は、弱った声で返事をすると、ペコペコと何度も私に頭を下げた。
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