私は異世界の魔法使い?!


この暖かで安心できる場所で、何も考えずただじっとしていたいと思える衝動は、下唇をぎゅっと噛み締めて振り払う。

胸元にあるであろうワンドの欠片を握り締め、見えない視界の中、辺りを見渡した。


研ぎすませ、研ぎすませ。

目が見えなくても空気を感じろ。

小さな物音でも聞き漏らすな。


初めて歩き出した赤子のように、両手を前に突き出し、ゆっくりと歩き出す。


「……カイト、いる?」


呟いた声は響かない。

どこにいく事もなく、消滅した。


「カイト、どこにいるの?」


ちゃんと口を開いたはずなのに、声はこの空間の中ですぐさま消える。

突き出した手に当たるものも何もなく、足音も無く、私はただただ歩き続けるだけ。

カイトはまた、どこかに隠れているのだろうか。

そうだとしたら今の私には何も見えない。

カイトが呼びかけに応じてくれるまで待つしかないのだろうか。

そんな悠長な事は言ってらんないのに。

私はいつになったらカイトを見つけられるのだろう。



< 629 / 700 >

この作品をシェア

pagetop