私は異世界の魔法使い?!


……連れてって。


そう言おうとした時、私の体に衝撃が走った。



暖かな温もり……。

私がずっと欲しかった、安心する温もり……。


カイトは私を抱きしめていた。


「……っ」


何かを言おうとしたけど、彼はその言葉を噛み殺した。


噛み殺した言葉の代わりにこぼれた吐息が、私の耳を掠めて、私の心を震わせる。

その振動に触発されるように、再び涙が押し寄せる。


カイト、カイトーー。


私の心が叫んでる。

けれどそれをぐっと我慢して、血がにじみそうなほど下唇を噛み締めた。


「……」


今何か言おうとすれば、きっとタブーを犯すことになる。


きっと私の我が儘が出てしまって、周りを困らせる事になる。


きっと周りを巻き込んで、またどこかで何かの歪みを作ることになる。



でも、でも……最後ならば、伝えたい。



一体なにを伝えよう。

一体なんて言えばいいんだろう。


お元気で?

体に気をつけて?

無茶ばかりしないで?


……ううん、どれも違う気がする。


どれも上手く言えない気がする。

じゃあ、どうするーー?



徐々に私を抱きしめる腕が弛み、暖かな温もりが私の元から離れてしまう。


その時、体は自然と動き出した。

それと同時に、突然私達を風が包み、そしてーー私達は。




口づけを交わした……。




ほんの少し、唇が触れる程度の淡白な、キス。


けれど、唇から全身に電気が走ったように、私の体も心も感電した。

ビリリと走る痛みと刺激に、涙は止まった。


触れ合った唇が恋しくて、私の決意を鈍らせようとする。


けれどその感情を必死になって押しとどめ、カイトに背を向けた。


もう私は振り返らない。


振り返ってはいけない。


カイトも何も言わない。


引き止めようとはしない。



ぎゅっと目を閉じて、ノアと共にソーサリーを後にした。





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