マリー
「お母さん」

 母親である川瀬美佐に呼びかけた。彼女の体が動き、顔だけこちらを見る。射抜くような鋭い視線に身じろぎをしながら、プリントを差し出した。

 彼女の視線がプリントの上を滑るのを確認する。

 だが、彼女は何も言わない。

 しびれを切らした知美が先に言葉を発する。

「授業参観があるの」

 彼女はひったくるようにそのプリントを奪うと、その場で丸め、床にたたきつけた。紙が床の上を転がる。

 知美はあっけにとられ、その紙の行方を眺めることしかできなかった。

 わざとらしいためいきが聞こえる。

 川瀬美佐はいつもよりも鋭いまなざしで知美を見つめる。

「行けるわけないでしょう。仕事があるのよ」

 その言葉に体を震わせる。別に彼女にそんな態度を取られた事は初めてではない。

だが、何度言われても慣れることは決してない。

言われるたびに、心の奥がえぐられるような痛みを覚えていた。

 知美は目頭が熱くなるのを感じながら、口を結ぶ。

「ごめんなさい」

 頭をさげると、自分の部屋に戻る。何も考える気がせずに、ベッドに身を投げる。
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