幻想

　おばさんの話しは面白いと思う。それに勉強になる」
　いいね、と口パクで中年女性店員が指を鈴音に突きつけ、「あなたみたいな清楚可憐な子に言われると鼻が高いわ。昔は私もあなたみたいだったのよ。でも、歳をとって出産を経験すると駄目ね。心がオープンになって、強くなっちゃう」と心を許したものにありがちな舌をペロッと出した。決して不快ではないけど、好感も持てない、と鈴音は思いを心にしまう。
　鈴音は左手に持っていた文庫本をおもむろに開いた。「恋をした人間はそれしか見えなく、他のことが二の次になる」
「あなたのファンになりそう。本なんか読んじゃって。人は活字から離れていくわね。ねえ、今からでも恋ってできるかしら？」