幻想
 「おじいちゃん。練習中なんだから邪魔しちゃ駄目よ」
 と初老の女。 
 初老の男がモスグリーンのセーターを着て、初老の女はダークブルーのセーターを着ている。どちらにせよ、暗色を好むらしい。
「復縁を迫ってきた男が諦めきれずに、元彼女の旅先まで押し掛けて、偶然性を装って座った席を間違え、ああ、やっぱりこの人気持ち悪い、と思った彼女が、ビンタをお見舞いする、という設定です」
 梨花は思いつきで喋った。鳥男の瞬き連打回数が尋常ではない。絹枝に至っては、何が起っているかも把握しきれていないようなきょとんとした顔をしている。
< 67 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop