幻想
なるほど、と梨花は納得した。伊達に歳は取っていない、言っていることに説得力がある。こういう大人を梨花は、大人と見なす。反論できない説得性、に。
「ばあさん、わしと結婚するまで何人のちくわぶを煮込んだのじゃ?」
 初老の男はオブラートに包み初老の女に訊いた。
「歳の数よ」
 と初老の女。場の空気が止まる。初老の男は足がガクガクになり、絹枝に至っては完全に化粧が削ぎ落とされている。鳥男のトップを立たせた髪が萎びた小松菜のようになり、梨花に至っては、その場で硬直した。
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