略奪ウエディング


翌日、会社でスミレが私を見て言う。

「…なんか…顔色が悪いわよ〜。調子よくないんじゃない?旦那サマに言って来ようか?」

ぼーっとしていた私は、驚いて慌ててスミレに言う。

「いっ、いいの…!何ともないの。大丈夫だから」

「そぅお?無理しないでよー…?」

「うん、ありがとう」

確かに少し頭がぼんやりとしている気がする。
だが課長に迷惑をかける訳にはいかなかった。

昨夜の課長の虚ろな目を思い出し、胸が締めつけられる。
私とはしばらく会わないと言ったその声が、悲しげに揺れる笑顔が、私を悲しみの世界へと落としていく。

しばらく離れて考えることなんて、私には何もない。
頭の中はいつでもあなたのことばかり。
課長の出した答えがもしも婚約破棄だったなら、私は一体どうなるのだろう。彼を忘れることができる日はいつかやってくるのだろうか。
…いいえ。そんな日はきっと来ない。ぞくりと身震いがして私は自分を抱きしめるように両腕で肩を掴んだ。
昨夜は一睡もしないで課長のことを考えていたせいだろうか、気が遠くなるような感覚に陥る。

―――…「梨乃!?しっかりして!」
スミレの声が聞こえる。
薄れゆく意識の中で、私と課長が笑っている。
純白のウエディングドレス姿の私を抱きかかえ、優しい目をした彼が微笑んでいる。
これは夢ね。…私にはそんな権利はないはずだもの。…彼は、今は…いないもの。
昨日確かに私の元を去ってしまったもの。

私の記憶はそのまま途絶えていった。





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