略奪ウエディング
それから三十分くらい経った頃、ふと辺りを見渡すともう誰も残ってはいなかった。

小さくため息を吐いて肩を押さえてこりをほぐす。
課長の姿ももうない。

怒られて当然だわ。公私混同で他人に迷惑をかけるなんて。
あと数分で終わるであろう作業を再開しようとしたその時。

「梨乃」

課長がオフィスに入ってきて私を呼んだ。

私は立ち上がって頭を下げた。

「すみませんでした。もう、今終わりますから」

顔を上げると、課長は笑いながら私を見下ろしていた。

「もういいよ。俺もきつく言いすぎたかな。でも、謝らないよ?悪いのは梨乃なんだからね?」

「はい」

私は課長の笑顔に涙が出そうになったけれど、グッと堪えた。

「でもどうしたの?いつもは遅れたりなんてしないのに」

「あ、いえ、…別に」

まさか課長のことで頭がいっぱいでぼんやりしていただなんて言えない。きっとさらに幻滅されてしまう。


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