略奪ウエディング


「あの日、初めて課長に告白したんです。私は…あなたとの未来に、課長への気持ちは必要ないとずっと思っていました。
その気持ちを捨てて砕いてしまいたかった。はっきりと彼に振られて、忘れて、東条さんのことだけを考えていきたかった」

「…そしたら、受け入れてもらえたんだね…」

「はい。嬉しかった。…でも、私にはあなたがいる。迷いの中、結局、課長を拒むことなんてできませんでした」

…今度は、私の番だ。私が東条さんのために、できること。

「あなたと課長を天秤にかけて、課長を選びました。私は…そんな女です」

「梨乃ちゃん」

私を恨んで、憎んで、忘れてください。あなたを利用したひどい女だったと。破談になってかえって良かったと。

「あなたとの未来を…保険に、課長に告白をした。振られて苦しくなっても、あなたに慰めてもらえると、…そう思っていたんです。あなたを利用しました。私は…」

東条さんもあの日、こんな気持ちだったのだろうか。これほどまでに切なくて、悲しかったのだろうか。
誰かを傷付けるために偽ることは、傷付けられるよりも痛く、…虚しい。

「もう、いいよ」

「え」

「もう、いい。分かった。…君を、忘れるよ。思い出したりもしない」

悲しげに笑うその顔は、明らかに傷付いたことを物語っていた。

「東条さ…」

「帰って、もう。聞きたくない」

彼は私から目を逸らした。
顔も見たくないと思ったのだろうか。

「ええ。帰ります。…もう、来ません。お元気で」

私は毅然とした態度でそう言うと彼に背中を向けた。



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