アイスブルー(ヒカリのずっと前)


泣いてはいけない。
自分に泣く資格はない。


鈴音は膝を抱えて、襖にもたれかかる。


風鈴がなっている。


正明となぜ一緒にいられないのか。
自分と、共に生きると言ってくれたのに。
なぜなんだろう。


正明といると不安になる。
不安でしかたなくなる。


どうやって生きて行くのか想像できなくなったのだ。


目を指でぎゅっと押さえる。

泣いてはいけない。
自分に泣く資格はない。


ふと気配を感じて、指を離し、目を開いた。


庭先に、拓海が立っていた。


いつも通りの、Tシャツに短パン姿。キャップで顔に影がおちている。


「……来たんだ」
鈴音はつぶやいた。

「今すれ違った人、泣いてた」
拓海が言った。


鈴音は何をどう言ったらいいのかわからず、黙り込んだ。


拓海は縁側から上がり、鈴音の前に座った。


鈴音は抱えた膝に顔をうずめて、不安な気持ちが大きくなってくるのを必死に押さえようとした。


「鈴音さん」
拓海が言う。

「何?」
鈴音は拓海の顔を見ずに、こもった声で答える。

「どうして鈴音さんに出会ったんだろう」


鈴音はゆっくりと顔を上げる。


拓海はキャップをとった。
「生まれ変わるなら、もっと遠いところだっていいわけだし」


鈴音は拓海の幼い顔を見た。


「そもそも前世の記憶なんてみんな覚えてないのに、僕だけ……」


「……冗談にしても、趣味が悪すぎる」
鈴音は言った。


拓海がはっとして鈴音の目を見る。


「誰に聞いたのか、誰にそうしろって言われたのかわからないけれど、冗談ならやめて欲しい」

「冗談じゃないよ」
拓海が続ける。
「鈴音さんは、僕になる前の命を、殺した」


鈴音は手で耳を塞いだ。
「やめてよ」

「なんのためらいもなく、僕を殺すことにした。いらないって言って」


鈴音はきつく目を閉じた。
「私に何をしろと? 泣いて謝ってほしい? 後悔してる、許してくれって」


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