アイスブルー(ヒカリのずっと前)


それからのことは、よく覚えていない。


拓海は、気づくと、道路に座り込んでいた。
アスファルトがしん、と冷たい。
ブロック塀に背をもたれ、足を投げ出している。


左を見ると、数人の男性が立て続けに出入りしていた。


夜。
虫が泣いてる。
泣いてる。
泣いてる。


自分のシャツを見ると、黒いシミがついている。
手を見る。
赤い。


再び左を見ると、母親が、首をうなだれて出て来た。
スーツを着た男性に連れられている。
そのまま車の後部座席に乗った。


あの車。
赤い光が点滅している。

パトカー……だ。




拓海は空を見上げた。
庭から道路に伸びる枝に、たくさんの葉がついている。


その隙間から、白い、月。


「逝っちゃった」
拓海は言った。



鈴音はもういない。
出会って、そしてまた、離ればなれになった。


頬を触ると、涙と血が混じって、指につく。


ふと右を見ると、坂道を早足でのぼってくる人影。


近づいてくる。
黒いパーカー。
フードをかぶっている。
首に、白い包帯。
目を、大きく開いている。



結城は暗がりで、パトカーを見て、それから座り込む拓海を見る。


口を開いた。
でも声は聞こえない。


呆然とした表情で、拓海の方に歩いてくる。
拓海から数歩のところで立ち止まった。


改めて、
家を見上げ、
パトカーを見て、
拓海を見た。


「何が」
のどに引っかかるような声で、結城が訊ねた。


「逝っちゃった……。あの人、僕を置いて逝っちゃった」
拓海は答えた。



衝撃を受けたような、結城の顔。


「まさか」

「なんで、母さんが来たんだろう」
拓海はつぶやいた。





結城が動かない。


震えだした。
口に手をやる。
結城の目が真っ赤になる。

拓海は首を傾げて、結城を見た。


「こんなつもりじゃ」
結城が手の下で、ぐももった声をだす。

「こんなこと、望んでたわけじゃ……ない。そんな」


拓海は結城の様子に見入る。


「おばさんの様子がおかしいって気づいてたけど、俺は、ただ、ただ、ほんの少し、き、期待を。何か、おこったら、いいって。変化が……。八方ふさがりで、苦しくて。でも、こんなこと」


拓海はだるい身体を持ち上げて、立ち上がった。
結城を見る。


「ほんの少しだけ、ほんとうに、ちょっとだけ願った、だけなのに。こんなこと望んでなんか」


結城の瞳から、涙が一筋、頬に流れる。



この光景。


見た。


これだったんだ。
そして。


拓海は結城の胸のあたりに、ぼんやりと光が見えることに気づいた。


拓海は驚いて目を開く。



青くて、白い。
氷河の色。
アイスブルー。



「痛みの色」


そう言った、鈴音を思い出した。



本当は、ずっと、見えていたのかもしれない。
見えない振りをしただけ。



拓海は結城に近づいた。
顔を見上げる。
結城の手が、白くなっている。
焦点があってない。


拓海は結城の身体に、腕を回して、抱きしめた。
結城の頬のあたりに、おでこをつける。


「大丈夫」
拓海は言った。

「大丈夫だよ。大丈夫」
拓海は続ける。


堪えていた結城が、声を出してなきだした。


「ごめん。本当に、ごめん。どうしたら……どうやって償ったら」



自分よりも背の高い結城を、ぎゅっと抱きしめた。


「大丈夫。また、きっと会える。きっと出会う」
拓海は目を閉じた。




鈴音が笑っている。
鈴音。
鈴音。


また会える。
これから続く、永い永い命の繰り返しの中で。

互いにそうとは気づかなくても。
きっと。



声をあげて泣いている、結城の身体の体温を感じながら、拓海は目を開け、空を見た。



白い月。
九月の冷たい風が、二人をなでる。



「結城……側にいて」
拓海はそう言うと、静かに泣いた。









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