アイスブルー(ヒカリのずっと前)


「あの、もう行きます。」
拓海が立ち上がった。

「ごめんごめん、怒ったの?」

「いえ、そうじゃなくて。なんか居座り続けるのも申し訳なくて」

「そう?」
鈴音は言ってから立ち上がった。


庭にかけてあるシャツを取り込む。
「まだ少し湿ってる」


「着ていきます」
拓海が手を出すが「湿ってるから」と言って、鈴音が台所から出してきた紙袋に衣類をたたんでしまった。


紙袋を拓海に手渡す。
拓海がまたペコっと頭をさげた。


「お借りしたこれ」
拓海が着ているシャツをつまむ。
「洗って返しにきます。」

「いいわよ、別に」

「いえ、お返ししますから」
拓海はそう言いながら靴を履いた。


縁側から歩き、門のところで振り返った。


「お名前、伺ってもいいですか?」

「市田鈴音です」
鈴音は縁側のところに立って、拓海を見送った。

「ありがとうございました。それからごちそうさまでした」
拓海が門の向こうからもう一度おじぎした。


鈴音は思わず手を振る。
すると拓海がにこっと笑顔を見せた。


鈴音も思わず笑顔になった。


「少し陽がおちて来たかな?」
鈴音は空を見上げた。


網戸を閉めて部屋に戻る。
拓海の食器を手にとり、シンクへ持って行った。
水を流しながら、拓海の言っていたことを思い出す。


鈴音の光。
青白くて、冷たい。氷河の色。


「ほんとうかな?」
鈴音は食器を洗いながらつぶやいた。


もし本当なら、どんな意味があるんだろう。
自分に色があるのなら、おそらく暖かな色ではないだろう。


「アイスブルー。ぴったり」
鈴音は悲しい笑みを見せた。

「洋服を返すってことは、またここにくるんだ」
鈴音は拓海の笑顔を思い浮かべた。

「変わった子と知り合っちゃったな」
鈴音はそういうと、食器の水を切った。



「さあ、掃除の続きをしなくちゃ」
そして鈴音は二階へと戻って行った。


< 24 / 144 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop