アイスブルー(ヒカリのずっと前)
「あの、もう行きます。」
拓海が立ち上がった。
「ごめんごめん、怒ったの?」
「いえ、そうじゃなくて。なんか居座り続けるのも申し訳なくて」
「そう?」
鈴音は言ってから立ち上がった。
庭にかけてあるシャツを取り込む。
「まだ少し湿ってる」
「着ていきます」
拓海が手を出すが「湿ってるから」と言って、鈴音が台所から出してきた紙袋に衣類をたたんでしまった。
紙袋を拓海に手渡す。
拓海がまたペコっと頭をさげた。
「お借りしたこれ」
拓海が着ているシャツをつまむ。
「洗って返しにきます。」
「いいわよ、別に」
「いえ、お返ししますから」
拓海はそう言いながら靴を履いた。
縁側から歩き、門のところで振り返った。
「お名前、伺ってもいいですか?」
「市田鈴音です」
鈴音は縁側のところに立って、拓海を見送った。
「ありがとうございました。それからごちそうさまでした」
拓海が門の向こうからもう一度おじぎした。
鈴音は思わず手を振る。
すると拓海がにこっと笑顔を見せた。
鈴音も思わず笑顔になった。
「少し陽がおちて来たかな?」
鈴音は空を見上げた。
網戸を閉めて部屋に戻る。
拓海の食器を手にとり、シンクへ持って行った。
水を流しながら、拓海の言っていたことを思い出す。
鈴音の光。
青白くて、冷たい。氷河の色。
「ほんとうかな?」
鈴音は食器を洗いながらつぶやいた。
もし本当なら、どんな意味があるんだろう。
自分に色があるのなら、おそらく暖かな色ではないだろう。
「アイスブルー。ぴったり」
鈴音は悲しい笑みを見せた。
「洋服を返すってことは、またここにくるんだ」
鈴音は拓海の笑顔を思い浮かべた。
「変わった子と知り合っちゃったな」
鈴音はそういうと、食器の水を切った。
「さあ、掃除の続きをしなくちゃ」
そして鈴音は二階へと戻って行った。