アイスブルー(ヒカリのずっと前)


縁側から入る風が、台所の小窓へ抜けて行く。
緑と土の香りが、カレーの匂いと混じって、夏を感じさせた。


鈴音は少年を見る。
思わず世話を焼きたくなってしまうような、そんな感じ。
見ず知らずの少年。


「名前は?」
鈴音が聞いた。

「進藤拓海、です」

「高校生なんだよね」

「三年です」

「今日はどうしてうちを見上げてたの?」
そう鈴音が訊ねると、拓海が困ったような顔をした。

「前もうちを見てたけど……やっぱり、前に会ったことがあるのかな?」

「夢を見たんで」
拓海が言いづらそうに言った。

「夢?」
鈴音の脳裏に今朝見た夢がよぎる。

「はい、あなたの夢を見たんで、気になって」
拓海はそう言うと頭をかいた。

「ああ、これじゃおかしな人だと思われちゃう。ストーカーとかじゃないです。絶対」

「?」
鈴音は訳がわからなかった。

「あの、僕、見えるんです」
拓海が勢いをつけて言う。
身の潔白を証明しようとしているようだ。

「何が?」

「光が」

「?」

「えっと」
拓海は鞄から古いデジタルカメラを取り出した。

「こうやって、カメラを通して人を見ると、僕にしか見えない光がうつるんです」

「ええ?」
鈴音が少年のカメラを覗き込む。
「普通のカメラだけど」

「そう、みんなには普通なんです。見えるのは僕だけ。緑だったり黄色だったり、ピンクだったり」

「オーラが見えるってこと?」
鈴音は当惑して拓海を見た。

「オーラなのか、何なのか、僕はわからないんですけど。でも肉眼じゃ見えない。カメラを通さなくちゃだめなんです。でもあなたは」

「?」

「カメラなしでも、光がしっかり見える。こんなこと初めてで」
拓海は気まずそうに言った。

「わたしが光ってるの?」


拓海がこくんと頷く。


「冗談?」

「冗談じゃないです」

「そう」
鈴音は予想もしてなかった言葉に面食らって言葉につまった。


「ああ!」
拓海が頭をかきむしった。
「余計変な人だと思われた」


その様子に鈴音は思わず笑ってしまった。
少年は口をとがらせた。

「ああ、ごめん」
鈴音が言う。
「真剣な話しだったよね」

「そうです……でも、信じられないのは仕方がないと思うけど」

「わたしは何色?」
鈴音は訊ねた。


すると拓海は鈴音の心臓のあたりを見つめる。
でも鈴音自身を見てる訳じゃない。
不思議な視線。


「青白い。冷たい、氷河の色みたい」

「色にはどんな意味があるの?」
鈴音が問うと、拓海ははっと我に返った。

「意味ですか? わかりません」

「そっか。」
鈴音はテーブルに肘をついた。
「意味がわかると面白いのにね」

「面白いかな」

「だって、占い師になれるでしょう?」

「別に占い師になりたい訳じゃないです」

「じゃあ、お化けは見えるの?」

「見えませんよ! 嫌だな、怖いこと言わないでください」

「わたし、会いたい人がいるんだけど」

「亡くなった人?」

「ここに住んでた祖母。まだ祖母がここにいるのか、確かめたいんだ。わかる?」

「わかりませんよ!」


鈴音はいちいちむきになる拓海の反応がおかしかった。

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