アイスブルー(ヒカリのずっと前)


陽がおちてくる。
時計を見ると七時だった。


「もう夜なんだ」
鈴音は椅子に座って、オーブンを見つめた。

「今日は遅くなっちゃったな」
拓海はいつも陽がおちる前に帰っていた。


鈴音はそっと居間に戻り、拓海を見る。
規則的な胸の動き。


居間は薄暗くなってきていたが、明かりはつけなかった。
人工の光が灯ったとたん、目を覚ましてしまうのではないかと思って。


ケーキが焼き終わるタイマーが鳴った。
鈴音は型からケーキを出して、紅茶を入れる。
濃いめに出して、氷の一杯入ったグラスに注ぎ入れた。


すると居間で拓海が動く気配がした。
振り返ると、台所の引き戸のところに拓海が立っていた。


「ケーキを焼いたんですか? いい匂い」
拓海が笑顔を浮かべる。

「誕生日だから」
鈴音も笑顔で返す。


最後の西日が台所に差し込む。
拓海が驚いた顔をして、
それからうれしそうに「ありがとうございます」と言った。


「待って」
鈴音は食器棚の引き出しをあけて、祖母がとっておいたろうそくを取り出す。

「三本しかないけど、ないよりいいよね」
鈴音はケーキにろうそくをさし、トレイにのせた。

「一日遅れだけど」
鈴音は拓海を促して、居間に戻る。


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