アイスブルー(ヒカリのずっと前)


二人で病院を出た。


暑い。
病院の玄関前までは屋根がついているが、道路のアスファルトは日差しでゆらいで見える。


「タクシーに乗ろう。駅までちょっと遠いし、また倒れても困るから」
鈴音は拓海に言った。
「おうちまで送るよ」


拓海は鈴音の顔をみて、首を振る。


まだしゃべらない。


鈴音は首を傾げた。
「まだ、具合悪いの? それなら無理をしなくても……」


拓海は再び首を振る。
鈴音は訳がわからず、溜息をついた。
「どうしたの、いったい……」


拓海は唇を真一文字に閉じて、鈴音と目を合わせない。
鈴音は拓海を促してタクシー乗り場まで行こうした。
拓海は鈴音よりも先に足を踏み出したが、玄関前の階段のところでよろめいた。


鈴音は思わず手を出して、拓海の腕をつかんだ。
「気をつけて」


すると拓海が鈴音の腕を、勢い良く振りほどいた。
鈴音はびっくりして、拓海の顔を見た。
拓海も驚いたような顔をしている。


「どうしたの?」
鈴音は再度手を伸ばすと、今度は拓海はその手を避けるように、二歩三歩と後じさった。


拓海は日差しの中に出て行く。
太陽の光で拓海の黒髪が光った。


目を大きく開いている。
その瞳から、突然涙があふれだした。


鈴音は呆気にとられて、立ちすくむ。


拓海は今まで堪えていたものが、途切れてしまったように、泣き出した。


「だ、大丈夫?」
鈴音は呆然としながらも訊ねた。

「殺した」
拓海が言った。

「え?」

「僕を……殺した……でしょ?」

「何を」
鈴音は息がつまる。



「僕を、いらないって。そして殺した」



拓海はそう言うと、くるりと向きを変えて走り出した。


拓海の背中が、どんどん遠くなる。


鈴音は追いかけようとしたが、足が固まって一歩も動けなかった。


< 89 / 144 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop