婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。
……そもそも『天シン』での西山敬太という男は、傍若無人で強引な俺様男だった。
しかし、俺様な性格ゆえに『自分こそが正しい』と思い込む傾向がある彼は、
滅多なことでは自分の過ちに気付かないし、
気付いたとしてもなかなか素直に謝れないという欠点がある。
あるはず、だったのに――。
(一体どうなってるんだろうコレは……)
数分後。
いくぶんか冷静さを取り戻した私は、敬太様へ深々と頭を下げていた。
「失礼いたしました、敬太様。少々取り乱してしましまして……」
「いや、その……俺もちょっと悪乗りしたからな。そこまで畏まらなくていい」
「ですが……」
敬太様に促され、私は伏せていた顔をゆっくりと上げる。
しかし、心に立ち込めた暗雲はなかなか晴れてくれない。
(なにやってるんだろう、私……)
口からこぼれそうになった溜息を喉の奥に押し込めながら、私は小さく俯いた。