青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。


自分に言い聞かせながら、あたしはへらっと笑った。

「なんか、用事があるって言って、五分くらい前にどっか行ったよ」

「…そっか。ありがと」

眉を下げる彼に、やっぱり胸の底がもやっとする。

それを一生懸命振り払いながら、「どうしたの?」と笑った。


「…ちょっと、話したいことがあったから。いないなら、また今度でいいよ」


ありがと、と言って、彼は友達と楽しそうに話しているトモのもとへ戻って行く。

その後ろ姿を見つめながら、ぎゅ、と携帯を握りしめた。


……縮まらない、距離。

彼を好きだと、思う。

もっともっと、近づいてみたいと、思う。

だってあんな人、初めてだ。

優しくて穏やかで、でもどこか寂しそうで。


…もっと知りたいって、思う。


あたしが求めていた、『大切な人』かって聞かれたら、まだわからない。

けど、好きだと思う。

そこからまた、どんな感情が生まれるかは、わからないけど。


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