青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。


「………」

ただ驚くばかりで、声が出ない。

…見て、くれてたんだ。

進路のことで、あたしはずっと悩んでた。

でもため息なんて、利乃がトモと池谷くんと楽しそうに話してるときくらいしか、ついてないし。

誰も、気づいてないと思ってたんだけど。

…なんか、ヤバイな。


嬉しい、なぁ。


「…あ。別になにもないんだったら、いいんだけど……」

「ううん」

あたしは、首を横に振った。

…いい人、だなぁ。

こんな人の『大切な人』になれたら、どれだけ幸せなんだろう。


「…話、聞いてくれる?」


小さく笑ってそう言うと、池谷くんはあたしを見て、すぐに「ん」と笑ってくれた。

あたしは前を向いて、相変わらず降り続ける雨を見つめながら、口を開いた。


「…池谷くんは、将来なりたいものって、ある?」


踏んだ水溜まりが、ぱしゃん、と飛沫をたてる。

濡れたスカートを、ぐっと握りしめた。


< 23 / 380 >

この作品をシェア

pagetop