恋の糸がほどける前に

「いいよ。……訊きたいこともあったけど言いたいこともあったから、そっちだけにする」


「言いたいこと?」


「ん。とりあえず、これな。さっき買えなかったから」


そう言って水原が渡してきたのは、鮮やかな赤のりんごあめ。


「……ありがと」


受け取ると、水原はふわっと笑って、どういたしまして、と言った。



その笑顔が、なんだかいつも違って見えるのは、どうして。


嬉しいはずなのに、心が不安で押しつぶされそうなのは、どうして。




「言いたいこと、っていうか、報告かな」


「報告……」


水原の言葉を繰り返した私に、彼は「そう」と頷いた。



「俺、彼女ができた」


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