恋の糸がほどける前に

廊下の角を曲がるとき、ちょうど俺とは反対側から来ていた誰かとぶつかりそうになり、反射的に身体が後ろに傾いた。


聞こえた、控えめなソプラノの悲鳴。



「……何、お前もまだ起きてたの?雫」


このまま黙ってすれ違うのもおかしな話かと思い、ぶつかりそうになった相手にそう声をかける。


……別に、いいよな?

こいつだって、俺と別れて早々に亮馬と付き合いだしたみたいだし、俺に対して好きとかそういう気持ち、ないんだよな?


心の中で自問自答。


……うん、問題ないはず。


「……貴弘くんには関係ない」


ふいっと視線を逸らして、俺の横を通り過ぎようとする雫に、すれ違いざま思わずその手を掴んでいた。


「なんだよ、その態度。大体、もう就寝時間だろ。こっちはお前の部屋じゃないだろうが。どこ行くんだよ」

< 239 / 283 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop