天使の涙
「凜……っ、どうして…」
「あんだテメェは!!!」
男が掴んでいる樹里の細い手首には、痛々しいほどに血が滲んでいる。
助けなきゃ、助けなきゃ、助けなきゃ。
「お巡りさん!!!こっちです!!!早く来て下さい!!!」
力の限りで大声を張り上げると、男は慌てて樹里ちゃんの手首を放した。
その隙を見計らい、私は買ったばかりの雑誌を投げ付けて樹里を大通りに引き寄せる。
「こっち!!」
お巡りさんを呼んだのが嘘だとバレる前に、出来るだけ遠くに逃げないと。
「…はぁ、はっ…はぁ……!!凜、待って…も、足が…」
「は……っ、はぁ!!もう少しだから、ここっ」
雑貨屋の裏手に逃げ込み、二人して乱れた息を整える。
ここなら絶対見つかりっこないから安全だ。
「恐かった…恐かったよ、凜!…ひっ…く…うっ…」
泣き崩れる樹里の背中を擦ってあげながら、私は唇をギュッと噛み締めた。
きっと物凄く恐かったんだろう。
「と…つぜん…知らない男の人に、あそこに連れ込まれた…のっ…訳が分からなくて…私…私…」
「大丈夫。もう大丈夫だよ、樹里」
バッグの中からハンカチを取り出して樹里に差し出す。