始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
恋する不安
惹かれている気持ちに気付いてしまうのもやっかいなものだ。澤田 隼人が同じ空間にいれば、その存在が気になってつい視線を持っていかれる。
少し距離があればその姿を目で追ってしまい、すぐそばを通れば表面は装っていても胸の鼓動は速度を増す。そんな自分にため息をついてしまう。
こんなはずじゃなかったのに・・・

私の見てきた限り彼はいい男だ。いろんな意味で。
見た目はこの社内といわず今まで出会った中でもトップに位置する。性格は私の知っている限りでは基本紳士で優しい。時にグレーな部分も見えたりするけど、そんなとこはあまり人に見せていないようだ。だから女子社員の間では王子的存在だ。そして何より仕事ができる。
こんな好条件の男を好きにならない方が珍しい。
そんな彼が嘘のような秘めた想いを寄せていた柚原 楓は、ひたすら山中 健吾を想い彼の気持ちに気付くことすらなかった。
そして私も彼のことはいい男とは思っていたけど、好きになることはなかった。
私の心にそんな余地はなかった。

誰にも言えない恋をしていたから・・・4年という長い年月もの間。本当は恋だなんて綺麗な言葉でまとめてはいけないのかもしれないけど、私にはずっと胸が苦しくなる想いだった。
それは今から1年前まで、私が終わりにすると決心に至るまで続いていた。
初めから好きになってはいけない人だったけど、自分の気持ちに気付いてからは良いも悪いも考えられずに自分の想いを通してしまった。
自分のことしか考えられなかった。
それは社会人になってから2年近く付き合っていた彼と別れた後のこと。
相談に乗ってくれた相手を好きになるというパターンはよくあることで、その相手が同じ営業部の佐野 孝宏だった。
彼はわたしの3歳年上で、入社当初から先輩として何かとサポートしてくれて相談にも乗ってくれていた。私がその当時の彼氏と別れた時もいつもと変わらず元気づけてくれたりしたのだけど、そんな佐野さんを今までと違う眼差しで私は見てしまったのだ。
すこし強引さのある言動や行動に魅力を感じて、止めようもないくらいに惹かれてしまった。
ダメだと何度も自分に言い聞かせたけど、頭は理解しても心は彼を求めて戻れなくなっていた。
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