始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
熱いシャワーを頭からかぶりながら今だけ余計な思考を排除する。思いっきりシャンプーで泡だらけにした頭を、丁寧にではなく【ガシガシ・ゴシゴシ】と乱雑に洗う。そんな調子で全てを洗い、余計な感情を流すようにシャワーを済ませた。
でも何だかんだサッパリして、頭も冴えて気持ちいい。
そして澤田くんが渡してくれた柔らかいバスタオルで、身体を包んで鏡を見る。

「スッピンだし・・」

メイクが取れているのは分かっていても、改めて見てしまうと気分が落ちる。
恋愛感情がある人でもないのだから気にする必要もないけれど、ちょっとね・・・。

「でもまあ・・仕方ないか」

諦めに似た感情でなんとか気合を入れて服を着る。タオルドライした髪の毛はドライヤーで乾かした。
そして部屋に戻り、今更ながら部屋の中を見渡した。

「シンプルな部屋」

思わずそう言葉に出てしまう位、物が少ない。
ソファー・テーブル・テレビ・チェスト、寝室だってベッドだけだったような・・・。まあ、クローゼットが結構あるから家具は必要としていないのかな。
そんな事を考えているうちに、ふと時間が気になった。澤田くんがタクシーを呼んでくれるって言っていたし。そう澤田くんは・・・まだ帰って来てないし。
とりあえずコートを着て帰り支度して、バッグを手にして玄関に向かった。そして靴を履きドアを開けて出たところで、ドア横でタバコを吸っている澤田くんの姿を目にした。

「あっ・・そこにいたの」

「これ吸ったら戻ろうと思って」

手元のタバコを見せ、ふんわり微笑んだ。

「咲季さんはゆっくり準備できた?」

「え?・・うん」

自然にそう聞いてくる澤田くんに、スッピンのことも思い出し急に恥ずかしくなって節目がちになってしまった。なのに突然頬を包むように撫でられ、その感触に驚き一瞬固まってしまった。

「可愛い」

ささやくような甘い声でそんな事を言われて、頬が急激に熱くなった。

「可愛いわけないじゃない!からかわないで」

動揺の大きさと同じように、つい声も大きくなる。
可愛いわけがない、こんな状態で。でもスッピンの弱みと言うか何と言うか、どう会話していいのか迷いこの場を逃げ出したくなった。

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