始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
惑わされる
日曜日の夜、咲季はベッドに横になりながら複雑な気持ちを持て余していた。
昨日の朝、今まで見たことのない隼人を目にして気持ちが揺さぶられたままで。
彼が入社してからずっと見てきたどの顔とも違う。甘い言葉をささやき、あまりに彼との距離が近くて戸惑ってしまった。
今まで同僚としてでも同期とは違う先輩・後輩の接し方だったのに。『咲季さん』と突然呼び、言葉遣いも何もかもが全く違う。
確かに身体の関係をもった途端に対応が変わる男はいるけれど、彼があんな風に甘くなるタイプだとは思ってなかった。しかも私相手に。
だとしたらやっぱり答えは一つしか考えられない。

『戸惑っている私を澤田くんはからかっただけ』

そうだ、冷静になって考えればちゃんと分かったはずなのに。苦笑を浮かべてからかうような言葉や態度を見せられたことは今までだって何度もあった。ただあの夜のことまで思い出してしまうから、冷静になれなかっただけなんだ。

「あほらしい」

ため息をついて雑念を払うように頭を振る。まとわりつくように私を悩ませる全てを払うように。
彼にだってたいした事じゃないはずだ。そう1回位・・しただけで。お酒を飲んで盛り上がって、流れでしちゃっただけだから・・。
まるで自分に言い聞かせるようにつぶやいて瞳を閉じた。

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