ラストバージン
「私の方こそ、ご馳走して頂いて本当にありがとうございました」

「いえ、おかげで楽しかったです」


ニッコリと笑った榛名さんが、私の後ろに視線を遣ってから微苦笑を零した。


「そういえば定休日でしたね」

「えぇ……。すっかり忘れてしまっていて……」

「どうりで、どんなに近付いても灯りが見えないはずだ」


自嘲混じりに微笑んだ榛名さんに同じような表情を返した後で、ふと思い浮かんだ言葉を口にしていた。


「あの、もしよろしければ、少しお時間ありませんか?」

「え?」

「この間のお礼に、何かご馳走させて下さい」


怪訝な顔をした榛名さんに笑顔を向ければ、彼が首を小さく横に振った。


「この間はこちらからお誘いしたんですから」

「でも、私の話もたくさん聞いて頂いたので、お礼をさせて下さい」


自分から異性を誘うなんて、いつ以来だろう。


(このまま帰っても、イライラしたままだろうから……)


心の中ではそんな事を考えていたけれど、そんな事くらいで友達とは言えないような関係の異性を誘う性格じゃない事は自分が一番よくわかっている。
ただ、それ以外の理由を上手く言葉にする事は出来なくて、深く考えないようにした。

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