ラストバージン
「じゃあ、ココアをご馳走して頂けますか?」

「もちろんです。どこか好きなお店はありますか?」


笑顔で頷いて、榛名さんを見上げる。


「安くて、すぐに提供してくれるお店が近くにあるので、そこで構いませんか?」


五センチヒールのパンプスを履いた私よりも頭一つ分背の高い彼は、どこか得意気な笑みを浮かべた。


「はい」

「こっちです」


人当たり良くニコニコと笑う榛名さんは、さりげなく私に合わせた歩調で路地から商店街に出て、程なくして足を止めた。


「ここです」


彼の視線を追った先にあったのは、シャッターの閉まった小さな理髪店。


「え?」


理髪店だとすぐにわかったのは、青と赤と白のストライプで作られたサインポールがあったから。
営業中ならクルクルと回っているそれは、お店の閉店を知らせるように停止している。


「そっちじゃなくて、こっちです」


笑顔のままの榛名さんの指先を追うと、理髪店の店先の自動販売機を指していた。


「まさか、お店って……」

「安くて、すぐに提供してくれるでしょう?」


悪戯っぽく笑う榛名さんに思わず吹き出すと、彼が「ご馳走して頂けますか?」と首を僅かに傾げた。

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