ラストバージン
「そうですか……」


一つの嘘と一つの真実をあっさりと口にしたばかりの私は、どんどん嘘が上手くなっていくような気がする。


「すみません、お忙しいのに振り回してしまって」


残念そうな表情を見せた佐原さんは、すぐに申し訳なさそうに微笑んだ。


「いえ、そんな事ありませんから」

「でも、レポートも仕事もなんて……。そんな時にお誘いしてしまって、本当に申し訳ありません」

「そんな……謝らないで下さい。それに、レポートはある程度纏まっていますし、持ち帰った仕事もすぐに終わりますので。ただ、夜になって焦るのだけは避けたいので、今日はそろそろ……」


持ち帰った仕事がすぐに終わるのも、ギリギリになって焦りたくないのも、本当の事。


「お忙しいのに、午前中から付き合って下さってありがとうございました」


ただ、別れ際に嬉しそうな笑みを向けられた事に罪悪感が大きくなって、嘘をついた事を後悔した。


佐原さんはいい人だと思うし、誠実に接してくれているのも伝わって来る。
それなのに、言い訳や嘘を並べてしまう不誠実極まりない自分に、酷く嫌悪した。


早く断ろうと思うのに出来ないのは、母から頻繁に掛かって来る電話が大きな一因だろう。

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