ラストバージン
Count,08 指先の温度
何かを待ち遠しく思うなんて、いつ以来の事だろう。


友達と遊びに行ったり、一人で出掛けたり、そんな時間を楽しみにする事は多々ある。
だけど、こんな風にドキドキワクワクするのは久しぶりだった。


在り来りな表現だけれど、子どもの頃に学校で行った遠足や修学旅行の前にも抱くような感情とよく似ていて、興奮を感じている自分の感覚を不思議だとすら思った。


確かに、榛名さんと一緒にいると肩肘を張る事なく楽しめているし、話している時だって自然と笑顔になる事が多い。


【苦手は物はありますか?】


今だって、必要事項を記入しただけの短文のメッセージと【榛名拓海(たくみ)】という名前を読んだだけなのに、簡単に口元が緩んだ。


【生のお肉と辛過ぎる物は少し苦手ですが、大体の物は大丈夫です】


可愛い顔文字を使いそうになったところで指先を止め、無難にシンプルな文章だけで送信した。
連絡先を交換した昨夜から翌日の昼下がりの今までで、早くも七通のメッセージをやり取りしている。


【わかりました】
【午後からも頑張って下さい】


いつもは休んだ気がしない程の短い休憩時間だけれど、榛名さんからの他愛のないメッセージに癒されたおかげで何とか今日も乗り切れそうだ、なんて考えながら微笑んだ。

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