ラストバージン
安全運転の車がゆっくりと入ったのは、私達の自宅から三十分程走ったところにある建物の駐車場だった。
洋風の造りになっている大きな一軒家のような外観は可愛らしいけれど、パッと見では営業をしているのかどうかは疎か、そもそも何のお店なのかもわからない。


「大体の物は食べられるとの事だったので、イタリアンにしてみました」


その言葉に、ここがレストランなのだと気付く。
食事の約束だったのだから、行き先が飲食店だというのは自然なのだけれど。


「嬉しい。すごく好きなんです」

「ピザもパスタも美味しいんですよ」

「楽しみです」


「期待していて下さい」と笑った榛名さんと店内に入ると、二人掛けのテーブルばかりが十卓並んでいた。
やって来たウェイトレスに名前を告げた彼が予約をしていてくれた事を知り、たったそれだけの事でやけに嬉しくなった。


どのテーブルの傍の壁にもそれぞれ百合のようなランプが付いていて、天井のエキゾチックな照明とともにテーブルを照らしている。
はっきりとした木目の椅子に腰掛けた後、ウェイトレスに手渡された洋書のような表紙のメニューを開き、榛名さんにお勧めを尋ねながらページを捲った。

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