ラストバージン

* * *


「矢田さん、この後何か予定はある?」


私も矢田さんも早番だった日、仕事を終えた後の更衣室で他のスタッフには聞こえないように切り出すと、彼女は怪訝そうにしながらも首を横に振った。


「もしよかったら飲みに行かない? 出来れば、二人きりで」

「え? 主任と……ですか?」

「うん」


口を開けば注意しか紡がない私を、矢田さんはうとましく思っているのかもしれない。
そんな不安を隠すように微笑み、彼女の反応を待った。


「はい……」

「じゃあ、着替えたら下で待っててくれる? 私もすぐに行くから」


上司からの直接的な誘いを断れなかったのかもしれないけれど、この際矢田さんが頷いた理由は何でも良かった。
榛名さんのアドバイスは一理あると思ったし、同僚達の目を気にせずに彼女と話す機会が必要だと思ったから。


一足先に出た矢田さんを待たせないように急いで着替え、更衣室に残っている院内のスタッフに声を掛けながら裏口に向かった。


「お待たせ。じゃあ、行きましょう」


七分丈の薄手のニットとデニムに身を包んだ彼女は、いつも無愛想なばかりの表情に少しだけ柔らかさを見せているような気がした。

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