ラストバージン
Count,09 ジレンマの中
仕事に追われていた春は瞬く間に過ぎ、季節はあっという間に夏を迎えた。


ゴールデンウィークももちろん仕事だった私は、ようやく三連休を貰えた六月末に菜摘と会い、無事に出産を終えた恭子にも会いに行った。


澤部さんと九州に行ったという菜摘からは散々惚気話を聞かされ、久しぶりに会った彼女は今までとは違った穏やかな雰囲気になっていた。
予定日よりも数日早かったものの、元気な男の子を産んだ恭子はすっかり母親になっていて、何だか感慨深いものが込み上げて来た。


仕事は相変わらず忙しいし、四人の新人はまだまだフォローが必要だけれど……。あれ程ミスの多かった矢田さんに、最近は少しずつ変化が見えるようになっていた。


そのキッカケは、きっと四月末に二人で食事に行った事だろう。
その頃もケアレスミスばかりの矢田さんに限界を感じ、やっぱり指導看護師を自分が引き受けようかと悩んでいた時、榛名さんに何気なく『新人の事で悩んでいる』と零すと、彼がこう言ったのだ。


『だったら、二人きりで飲みに行ってみたら? 食事をするとその人の内面が見え易いし、アルコールが入ると本音を引き出し易いから』


半信半疑でも頷いたのは、間違いなく榛名さんの言葉だったからだろう――。

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