ラストバージン
和食を中心に提供しているこのレストランは全国チェーン店で、友達や家族とも何度か系列店に入った事がある。
軽くメニューに目を通したものの、結局はよく頼むランチ御膳を選んだ。


正直なところ、今は食事をするような気分じゃない。
こんな状況で榛名さんと向き合って食事をするなんて、お見合いの時よりも気が重かった。


「もう食べないの?」

「うん。何だか、お腹がいっぱいで……」


怪訝な顔に苦笑を返せば、榛名さんは複雑な笑みを浮かべた。


ぎこちない会話も、気まずい雰囲気も、私達の間に重苦しさを見せるばかり。
今日はまだ、二人して一度もまともに笑えていない。


榛名さんと過ごして来た時間をどんなに思い返しても、こんな雰囲気になった事はなくて……。ファミレスを後にした車内では、それまでよりも更に会話が減ってしまった。


「やっぱりやめよう……」


沈黙の中で車を走らせていた榛名さんが、不意にポツリと呟いた。


「え?」


キョトンとした私に、眉を寄せた笑みが向けられる。


「水族館。今日はそんな気分じゃないだろ?」


そして、榛名さんはため息混じりの答えを口にすると、突然コンビニの駐車場に入って車を転回させた。

< 242 / 318 >

この作品をシェア

pagetop