ラストバージン
榛名さんがどこに行くつもりなのか、もしかしたら帰るつもりなのか、私にはわからない。
ただ、何となくそれを訊けるような雰囲気じゃなくて、無言を貫いた。


それに、榛名さんの言う通り、今日は水族館なんて行く気分でも雰囲気でもない。
行ったところで楽しめそうにないのなら、ここで引き返す方が良策だろう。


程なくして、楓の近所の商店街を抜けたところにある公園の前に着き、車がゆっくりと停まった。


「……単刀直入に言うよ」


エンジンとクーラーの音の中に、緊張感を孕んだ声音が混じる。
これから紡がれる言葉を予期した心が、鉛を落とされたように重苦しくなった。


「この間の返事を聞かせて欲しい」


予想通りの状況なのに言葉が出て来ないのは、未だにどんな返事をするのか決める事が出来ていないから。


「本当は、もう少し待つつもりだったんだけど……」


榛名さんが私を見つめているのはわかるのに、私は俯いたままでその視線に応える事が出来ない。


「正直、結木さんと過ごす時間がこんなに気まずいのは、ちょっとつらいから……」


そんな私の気持ちを察するようにしながらも落とされた言葉に、ズシリとした重みを抱いている心の中で深く共感していた。

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