ラストバージン
Count,12 今の君
日没が早くなり始めた、九月上旬の夕方。
私は、早番を終えた職場を後にした。


土曜日の今日は街も電車も人で溢れていて、楽しげな人達ばかりが目に付く。
自分がつらくても、悲しくても、苦しくても、世間は何も変わらない。


当たり前のように朝陽が昇ってお店が開き、お昼になればランチを摂るOLやサラリーマンが目立ち、夜になれば人々は学校や職場から家路に着く。
そして、今日みたいな休日は日頃のストレスを発散させるように、友達や恋人や家族と楽しそうに過ごしている。


今この瞬間も、つらい思いをしている人は世の中にたくさんいるのだろうけれど……。街中で見掛ける人々は幸せそうに笑っていて、悲しいのは自分だけなのかもしれないと悲観してしまう。


これが独りよがりだというのはよくわかっているのに、こうしてまた一人で悲しみに浸ってしまうのだ。


相変わらず菜摘も恭子も心配してくれていて、全く面識のない二人が見計らったように同じようなタイミングで連絡をくれるから、私の知らないところで知人になったんじゃないかと疑ってしまう。
もちろん、そんな彼女達の心遣いはとても嬉しいし、今の私にとって一番の心の支えになっているのだけれど……。

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