ラストバージン
長い一日を終えて一息ついたのも、ほんの束の間の事。


だって、今日はまだ菜摘との約束がある。
これがレストランや居酒屋でのいつものような食事なら、どれだけラクな気持ちでいられただろうか。


面倒臭さでため息を零しながら、メイクを直していく。
鏡の中に映るメイクの崩れてしまった顔を見ながら、いっその事メイクを落として最初からやり直した方がいいんじゃないかと、再びため息が漏れた。


「あ、結木さん。お疲れ様」

「お疲れ様です」


声を掛けて来たのは、外科の看護主任の中尾(なかお)さん。
四十代の彼女は外科病棟の看護師からはもちろん、他の病棟の看護師やドクターからも信頼されている程のベテランで、私も慕っている。


看護主任の中で一番若い私を歳の離れた妹のように可愛がってくれ、看護主任のミーティングで浮かないようにと気遣かってくれた。
おかげで、厳しい女性が多い中でも比較的スムーズに溶け込め、中尾さんと仲の良い人達からも可愛がって貰えている。


「これからどこかに行くの?」

「ちょっと、友達と食事に」


まさか「婚活パーティーに参加します」なんて言えるはずもなく、咄嗟にそう答えてニッコリと笑った。

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