ラストバージン
「あら、いいわね。私はこれからスーパーに寄って、帰ったら急いで夕飯の支度よ。せっかく仕事が終わったと思ったのに、嫌になるわ……」

「お疲れ様です」


二人の男の子の母親でもある中尾さんは、主婦としての仕事もあって、本当に休む暇もなさそうだ。
自分と同じ肩書きで、主婦としても母親としても社会人としても働いているなんて、心底尊敬してしまう。


同時に、私には絶対に無理だと思う気持ちでいっぱいになって、この後の事を考えながら余計に気が重くなった。


「じゃあ、お先に失礼するわね」

「はい。お疲れ様でした」

「結木さんもお疲れ様」


笑顔で更衣室を後にした中尾さんを見送り、再び鏡と睨めっこをする。


(こんな感じでいいかな……)


半ば妥協して終えたメイク直しには随分と時間が掛かり、菜摘との待ち合わせまでにあまり余裕がなくなっていた。
シンプルなAラインのワンピースの上からオフホワイトのカーディガンを羽織り、急いで更衣室を後にした。


九月末だというのに、薄着でも大丈夫なくらいに暖かい。
憂鬱な気持ちのまま菜摘との待ち合わせ場所に向かうと、いつもよりも清楚なワンピースに身を包んだ彼女が私に気付いて、満面の笑みで手を振った。

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