ラストバージン
* * *
「ねぇ、葵」
(来たっ……!)
今にも引き攣りそうになる顔で平静を装い、逃げ出したい気持ちを隠して母を見る。
「何?」
「誰かいい人はいないの?」
居間にある長方形のテーブルには両親と姉夫婦が向かい同士で並び、その四人の間に座っている私に一瞬で視線が集まった。
そんな男性がいるのなら、こんな肩身の狭い思いをする必要はないのだろう。
「仕事が忙しくて……」
恋人どころか好きな人すらいなくてお決まりの言い訳を口にする私に、母がいつものように呆れた表情でため息をついた。
「仕事、仕事って……。あなたの仕事が忙しいのはわかるけど、だからと言って結婚の事を疎かにしていたら、一生独身のままになるわよ」
何も皆の前でそんな言い方をする事はないだろうと思うけど、いつまで経っても結婚の〝け〟の字どころか恋愛すらしている様子のない私が、親として心配で堪らないのだろう。
ただ、それを理解していても、会う度にこうもズケズケと踏み込まれてしまうと、実家に帰って来るのが億劫になる。
きっと、同年代の独身女性ならば、多くの人が同じ思いを抱いた事があるに違いない。