ラストバージン
「別に、疎かにしてるつもりはないよ。でも本当に忙しくて、今はそんな暇ないの。ほら、主任って仕事がたくさんあるから」

「今は今は、って……。あなた、いつもそう言うじゃない」

「まぁまぁ、お義母さん。こういった事は人それぞれにタイミングがありますし、葵ちゃんは看護師として立派に働いているんですから」


不満そうな母に、姉の旦那である孝輔(こうすけ)さんが笑顔を向けた。


「そうよ、お母さん。葵には葵のペースがあるんだし、今日はせっかくのお母さん達の結婚記念日のお祝いなんだから、今はその話はいいじゃない」

「そりゃあ、(あかね)はいいわよ。短大時代から付き合っていた孝輔さんと早くに結婚して、子どもだって産んだんだから……。でも、葵は……」

「母さん、もういいだろう」


とうとう痺れを切らしたように口を挟んだ父に、母は眉を寄せながらも諦めたようにため息をついた。


「あ、そうだ。ケーキを切りましょうか。葵、手伝ってくれる?」


重くなった空気を変えるように、明るく笑った姉がそんな提案をする。


「じゃあ、僕は子ども達を呼んで来るよ。そろそろゲームもやめさせないとね」


孝輔さんも笑顔を見せ、私と姉の三人で居間を出た。

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