ラストバージン
「……主任? 結木主任!」

「……っ!」


突然響いた声に体を強張らせると、酒井さんが申し訳なさそうにしながら私の手元に視線を落とした。


「これ、間違っていませんか?」

「え? ……あっ!」


酒井さんの指先を追った後で声を漏らし、ため息も零れた。
看護記録に記入した患者さんの名前と病名が一致していない事を一目で理解し、簡単に認識出来るようなミスを侵した事に呆れる。


「ごめんなさい、ボーッとしていたみたい。ありがとう」


「いえ。……大丈夫ですか?」


苦笑した私に向けられた心配げな表情に、ゆっくりと頷く。


「でもダメだよね……。最近ボーッとしてばかりで、この間も退院手続きをするのを忘れていたし……」

「疲れているんですよ。主任、仕事量が他の人とは桁違いですから……」

「ううん、忙しいのは皆同じだから。ちゃんと気を引き締めなきゃね」


眉を下げた酒井さんに次の業務に取り掛かるように言って、記入ミスしてしまった看護記録をシュレッダーに掛ける。


真夜中の今、目の前の廊下は憂鬱を助長させるように薄暗く、気が滅入ってしまって……。周りに誰もいない事を確認し、そっとため息を漏らした――。

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