ラストバージン

* * *


とうとう迎えた、お見合いの日。
何度も断ろうと考えつつも結局は思い浮かんだ言い訳を口に出来ず、どんよりとした気持ちでお店に着いた。


「いらっしゃいませ」


ここに来るまで、何度踵を返そうとした事だろう。
それでもきちんとお店に辿り着く事が出来たのは、昨夜と今朝に掛かって来た母からの電話のせいだと思う。


やっぱり、母は〝軽い気持ちで〟なんて思っていない。
『笑顔を絶やさないように』だの、『清楚で上品な服にしなさい』だの、気合いが入った口調でそんな事ばかりを聞かされた。


「結木と申しますが……」

「佐原様のお連れ様ですね。承っております」


笑顔で丁寧な対応をした女性店員は上品な着物姿で、靴を脱いで上がった店内のフローリングはツヤがあり、BGMは三味線の音。
生け簀らしき入口の水槽には、何匹もの魚が泳いでいる。


どこがリーズナブルなのかと言いたくなるような店内に益々気が滅入っていたところで、前を歩いていた女性店員が立ち止まって「こちらのお部屋になります」と振り返った。
そして、「失礼します」と言った彼女によって、桜の花びらが描かれた障子が引かれた。

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