ラストバージン
ぼんやりと過ごしたり、マスターと言葉を交わしたり……。そんな穏やかな時間に浸っていると、気が付けば楓に来てから一時間以上も経っていた。
ちょうど老年の女性客が去ったばかりの店内に残っているのは私だけで、レコードから流れる音楽のボリュームがさっきまでよりも大きく聞こえる。
私もそろそろ帰ろうか、なんて考えていると、ドアに付けられている鐘の音が響いた。
「いらっしゃいませ」
私が何となく振り返ったのとマスターの声が響いたのは、ほとんど同時の事だった。
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます、榛名さん」
穏やかな笑みで店内に入って来たのは、榛名さんと呼ばれているあの男性。
顔見知り程度の彼も楓の常連客だろうけれど、顔を合わせるのは久しぶりだった。
「お好きなお席へどうぞ」
「……はい」
ほんの一瞬、何故か私の方を見た榛名さんは、すぐにニコッと笑ってカウンターの椅子を引いた。
彼が腰掛けたのは、私が座っている場所から一つ飛ばしたところにある椅子。
私が使用している一脚を除いた椅子以外は空席なのに、榛名さんが敢えてそこを選んだ理由が何となく気になってしまった。
ちょうど老年の女性客が去ったばかりの店内に残っているのは私だけで、レコードから流れる音楽のボリュームがさっきまでよりも大きく聞こえる。
私もそろそろ帰ろうか、なんて考えていると、ドアに付けられている鐘の音が響いた。
「いらっしゃいませ」
私が何となく振り返ったのとマスターの声が響いたのは、ほとんど同時の事だった。
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます、榛名さん」
穏やかな笑みで店内に入って来たのは、榛名さんと呼ばれているあの男性。
顔見知り程度の彼も楓の常連客だろうけれど、顔を合わせるのは久しぶりだった。
「お好きなお席へどうぞ」
「……はい」
ほんの一瞬、何故か私の方を見た榛名さんは、すぐにニコッと笑ってカウンターの椅子を引いた。
彼が腰掛けたのは、私が座っている場所から一つ飛ばしたところにある椅子。
私が使用している一脚を除いた椅子以外は空席なのに、榛名さんが敢えてそこを選んだ理由が何となく気になってしまった。