黒愛−kuroai−
 


悔しそうな顔で、ギラリ睨まれた。


小細工しても無駄…

それを理解したのか、彼は私の手首を掴み、岬へと歩き出す。




やっとその時が来た。



大きな灯台の横を過ぎ、立入禁止の鎖を跨ぐ。


二人手を繋ぎ、一歩一歩、崖淵へ近付いて行った。




足元はゴロゴロ岩が転がり、枯れた雑草が岩の隙間を埋めていた。



唸りを上げる風。

冷たい潮風に黒髪が流され、視界を邪魔する。




手を繋ぎ、崖淵ギリギリに立つ。

足元で石が崩れ、吸い込まれるように落ちて行った。



眼下に見えるのは、ゴツゴツした岩場と、白く砕け散る波しぶき。




ここから落ちると、岩に激突し、即死する。


砕けた死肉は、波にさらわれ、海に消えるだろう。




下ばかり見ていると、繋いだ右手を強く握られた。


彼に視線を戻す。



真顔の彼が、静かに聞いた。



「どうして、笑っているの?」




私が答える。



「嬉しいから。
これで永遠に一緒だネ。
フフフッ」




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