黒愛−kuroai−
これ以上断ると、無理やり飲まされそうなので、仕方なく受け取った。
冷たい缶珈琲を手に、上目遣いで見上げる。
彼は視線を泳がせた。
柊也先輩って……悪事の才能ないみたい。
睡眠薬か毒薬か分からないけど、何かを混入させたとバレバレだ。
缶珈琲を口に近付ける。
彼は横目で見ながら、ニヤリ笑いたいのを我慢している。
ゆっくりゆっくり、口元に運ぶ私。
唇まで数ミリの距離で、ピタリ止めた。
喜ぶ寸前の彼の前で、缶を逆さにし、中身をドバドバ地面に流した。
「あっ!」と驚く声がする。
流れる茶色の液体を前に、素敵な顔が醜く歪んで行った。
最後の一滴が落ちるのを見届け、空き缶を後ろに放り投げた。
乾いた音を立て、砂利道に転がる空き缶。
クスクス笑いながら言った。
「私、珈琲飲めないんです。苦いからキライ。
半年も付き合っているのに、先輩、私のこと分かっていないですネ」