みあげればソラ


「悪いね、折角の買い物の途中で。

これで何か甘いものでも食べて帰って」


男はそう言うと、由貴の手にくしゃくしゃの千円札を握らせた。

少しだけ触れたその手は、汗ばんで熱かった。


「美亜さん? 夕食の支度はわたしがしときましょうか?」


首を横に振り続けるだけの美亜を案じて由貴が声をかけた。

「大丈夫、簡単な物ならわたしにもできます。カレーとか?」

美亜を安心させようと笑っておどけて見せた由貴だったが、彼女の様子が可笑しいことにやっと気付いた。

「美亜さん、もしかして行きたくない?」

男を窺うように小さく頷く美亜を見て、由貴は身体の芯がゾクッと震えた。

「おじさん、今日はどうしても買い物済ませないといけないんで、話は後日じゃ駄目ですか?」

由貴にしてみれば当然の提案だった。


しかし、その言葉を皮切りに男の態度は一変した。


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