みあげればソラ


「貴様、俺を怒らす気か」


急に声色を変え、低く太い声が二人を威嚇した。


「俺は気が短けぇんだ。

今と言ったら今なんだよ。

やっと見つけたんだ、逃げられたらしまいだからな。

結局、美緒にも逃げられてこっちは機嫌が悪いんだ。

少しは慰めてもらわねぇと割りに合わねぇだろうがよっ!」


そう言い放ち、美亜の腕を強引に掴んでその男は歩き出した。

「ま、待ってくださいっ!」

「うるせぇ! 邪魔だ、失せろっ!」

追いかけるような形で、その男の腕を掴もうとした由貴の手は簡単に振り払われてしまった。

男の力は強かった。

とても彼女の手に負える事態ではない。

引きずられるように連れて行かれる美亜の背中を呆然と見つめながら、由貴は自分の不甲斐なさに情けなくなる。

(そうだ、弘幸さんに知らせなきゃ)

咄嗟に思いついたのは不幸中の幸いだった。

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