みあげればソラ


「さむぅ〜、急に冷えるなぁ〜 こりゃマフラーだけじゃもたねぇか?」


俺は仕事を終え、店の外へ出た。

営業用の見た目派手なラメの入ったペラペラのスーツ。

これじゃ寒さはしのげない。

温かいのはマフラーを巻きつけた首元だけだ。

経理の翠さんから借りた毛織のマフラーは、黒字に赤いハートの模様のついた女物。男の俺にはちょっと長さが足りない。

それでも無理矢理、寒々しい首周りを覆い隠した。

――急に冷え込んできたからなぁ〜

月末締日で残業していた経理の翠さんがあんまり薄着なので、俺の毛皮のコートを貸したのだ。

常連客からの貢物であるホワイトフォックスのコートは、客が帰れば見せ場を失って用済み。

――俺は王子様じゃねぇ〜っての!

その派手さは、俺のホストしての格を確実に上げてはくれたが、プライベートで着るには気恥ずかしい。

それでも、毛皮は毛皮。

特にホワイトホックスは毛足が長いから、温かい。

翠さんに風邪でもひかれちゃ、こっちが困る。

だから彼女に毛皮を着せ、代わりに俺が翠さんのマフラーを借りて寒さを凌いでいるってわけ。

男は我慢。

ポケットに手を入れたまま走ってみる。

身体を動かせば、少しは温かくなるだろ。
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